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水戸訪問(前編)

 三月の最終土曜日、お昼過ぎに私は常磐線特急ひたち11号に揺られていた。窓の外は曇天で、東京から千葉に入ろうかというところで窓に雨のラインがほぼ真横に入る。せっかく窓際の席を選んだのに車窓を楽しむことができない、と残念に思っていたが、雨はすぐ上がって、車窓にはのどかな風景が映し出された。

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 上野駅を出発してから約一時間後、私は初めて水戸駅に降り立った。

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 茨城県、というと、音楽フェスやネモフィラを見るためにひたち海浜公園を何度か訪れたことがあった。その際にいつも通り過ぎていて、納豆好きとしてなんとなく気にはなっていた水戸駅にこのタイミングで訪れることになるとは。

 数日前、Yahoo!JAPANのトップページに一枚の塔の写真が表示されていた。側面は三角形を組み合わせてできており、それを斜めに捻じ曲げて伸ばしたような奇妙な形のその塔の上方は青、下方は黄色にライトアップされていた。心の中の松田優作が「なんじゃこりゃ〜!」と叫んだ直後、画像をクリックし、それが「水戸芸術館」という建物であること、三月末までウクライナの平和を願って特別にウクライナ国旗の色にライトアップされていることを知った。

 最近旅行らしい旅行もしていないし、会社の福利厚生のポイントもたまっている。水戸芸術館を訪れ、納豆の聖地で納豆に舌鼓を打ち、偕楽園で春を感じるのもよかろう。日帰りでもできそうな近場だったが、ゆっくり一泊二日で訪れることに決めたのだった。

 事前に目をつけておいた駅ビルの中の「常陸野ブルーイング水戸」というお店で、茨城県のブランド牛「常陸牛」を使用したハンバーガーとクラフトビール飲み比べセットを頼む。ハンバーガーの美味しさは言わずもがな、普段はビールなどあまり飲まないのにこういうところで飲むビールのなんとうまいこと。ビールは誰といつどこで飲むかで味が変わってくる不思議な飲み物だと思う。今にも雨が降り出しそうな水戸駅前の広場を眼下に眺めながら、三種類のビールを行き来していると、アルコールが体に回り始める。九州男児ましてや鹿児島県は奄美地方の出身、普段はアルコールに強いはずの私がこれぐらいで酔ってしまっては、故郷の両親、親戚、友人らに合わせる顔がない。これはあれだ、このところ多忙を極め疲れがたまっていること、睡眠があまり取れていないことが原因であろう、と言い訳をこしらえ、お店を後にした。

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 駅の近くのホテルへと向かい、チェックインすると即ベッドに倒れ込んだ。そもそもこの日は天気が悪く、本格的な観光は明日にしようと考えていたので、罪悪感ではなく心地よい疲労感とともにしばし休むことにした。

 目が覚めるとすでに外は暗くなっていた。とりあえず、この小旅行の主目的であるライトアップされた水戸芸術館へ向かうことにした。水戸駅からは徒歩二十分、歩くには少々遠いがのんびり水戸の街を見ながら向かうのもいいだろう、と駅前から続く大通りを歩き始める。コロナ禍だからなのか、普段からそうなのか、午後七時を回ったところで通り沿いのお店はだいたいが閉まっていた。

 水戸芸術館のアートタワーの頭の部分、青でライトアップされた箇所が周囲の建物の上方から顔を覗かせた。近くまで来たようだ。水戸芸術館の広場の入り口の逆方面から向かっていたようで、敷地をぐるりと回る形になったが、その分、実際に塔を目にしたときの感動が強くなったような気がする。写真で見たとおり、青と黄色にライトアップされた水戸芸術館の塔が、落ち着いた水戸の街中に存在感を放って屹立していた。普段は展望室の見学も可能だが、コロナ禍でそれが中止となっていたのが残念である。それでも、ライトアップされてきれいに輝く塔を外からじっくり眺め、その姿を目に焼き付ける。世界の平和を願うばかりである。

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 駅へと引き返す途中、納豆料理で有名な「てんまさ」というお店に立ち寄り、納豆御膳を食べる。納豆オムレツイカ納豆、まぐろ納豆、梅納豆、納豆天ぷら、納豆汁、納豆オールスターズである。納豆嫌いの人からしてみれば地獄かと思われるお盆の上も私にとっては天国。小学生の頃、好き嫌いが多かった私がなぜか納豆は大好きで、給食の時間、納豆が嫌いな同級生たちから納豆をもらい、パックをトレーの上に積み上げ、水戸城の城壁を築いていたことを思い出す。日常的に納豆を食べ続けてきた。自分の誕生日が納豆の日、7月10日でないことが残念だった。織田裕二Love Somebody』の曲中で繰り返される「never」が「粘(ねば)〜」に聞こえて仕方がなかった。人間の体重の60%は水分だと言われているが、私の体重残り40%はナットウキナーゼなのかもしれない。今だに多少好き嫌いがある私が、会社の健康診断で健康体を維持できているのも、日本を代表する健康食、納豆の力によるところが多いのではないだろうか。今宵、ようやく聖地で納豆を食すことができ感慨深い想いでいっぱいである。

 たくさんの納豆たちを完食して店を出る。腸内の平和を願うばかりである。

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