日記なんかつけてみたりして

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京都音楽博覧会2023

どこよりも早い音博レポートをしたためようと思っていたのに、多くの参加者に先を越され、更に季節の流れは私の執筆速度を遥かに凌駕していて、気付けばゆっくりと12月のあかりが灯りはじめ慌ただしく踊る街を誰もが好きになる季節。暖かいから油断していた…

引越初夜

暑い夏だった。夏は基本的に暑いものだが、今年の夏は例年にも増して暑かった。いや、去年の暑さの記憶なんて、その間にある冬でリセットされて覚えているはずもなく、実際はさほど変わらないかもしれない。でもテレビやらネットニュースやらで「真夏日」「…

引越前夜

なんで、私が東大に!? という某予備校の広告に似た思いが脳裏をよぎる初夏だった。私は10年間住んだマンションからの引っ越しを控えていた。10年間、長い期間である。気付けば私の人生において最も長く住んだ部屋になっていた。その間、年齢も年収もじわりじ…

東海地方行脚の旅4

2016年2月13日、私は名古屋駅前の超高層ビル、ミッドランドスクエアの42階にいた。お世話になった軽音楽部の先輩の結婚式に参列していた。久々に部活の先輩方と会い、テーブルは同窓会の雰囲気で、学生時代と変わらない先輩方の立ち振る舞いが否応なしに私を…

東海地方行脚の旅3

昨夜降っていた雨がまだしぶとく名古屋の街を濡らしていた。ホテルで朝食を取った後、傘を差して雨の栄を歩く。大学生の頃、街に出かけると言うときは今住んでいる東京ほど選択肢がなく、せいぜい栄か大須観音ぐらいで、休日にそこへ行くと結構な確率で知人…

東海地方行脚の旅2

ブログを書くのが面倒で、今流行りの某AIに助けを求めたが、学生時代6年間を過ごした名古屋を7年ぶりに訪れた私の感情はAIにすくい取ることはできず。ならば細かく条件を与えてみたらどうかと思えど、それでも痒いところに手が届かない。では更に細かく条件…

東海地方行脚の旅1

目の前の駅名標には「伊勢市」と書かれていた。7年ぶりの名古屋訪問の予定が、乗り過ごして伊勢まで来てしまったようだ。いや、これは当初から予定していたことで、そもそも東京から名古屋を乗り過ごして伊勢に向かう電車などない。確信犯。確信犯という言葉…

この門をくぐる者は(金沢旅行本編1)

9月23日、金曜日、秋分の日の東京は台風到来の予感を孕みながらもなんとか曇天でとどまっていた。台風の進路予想は、ちょうど私が金沢を満喫しているときに東海や関東をなぞって通り過ぎていくようで、正に台風から逃れるような旅、太平洋側の皆さんが苦しん…

京都音楽博覧会2022

のぞみ213号は午前9時ちょうどに東京駅を出発、流れてくるアナウンスが懐かしく、前回新幹線に乗ったのはいつだろうと思い返してみるとそれは3年前、今回と同じく京都音楽博覧会(以下「音博」)のための東京・京都間の往復だった。 ここ2回はオンライン開催…

金沢旅行(プロローグ編)

——ものうさと甘さとがつきまとって離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しい、りっぱな名をつけようか、私は迷う。 フランスの作家、フランソワーズ・サガンは処女作『悲しみよこんにちは』をこのような書き出しで始めているが、私は金沢訪問のため…

水戸訪問(後編)

何かやらなければならないことがあったような気がしていたが、これだ。このブログの水戸訪問の後編を綴るのをすっかり放置していたのだった。三月下旬に訪問してから激動の四月が過ぎ去り、いざゴールデンウィークでじっくりこの日を振り返ろうと思っていた…

水戸訪問(前編)

三月の最終土曜日、お昼過ぎに私は常磐線特急ひたち11号に揺られていた。窓の外は曇天で、東京から千葉に入ろうかというところで窓に雨のラインがほぼ真横に入る。せっかく窓際の席を選んだのに車窓を楽しむことができない、と残念に思っていたが、雨はすぐ…

脂肪と郷土愛

ゆっくりと12月のあかりが灯りはじめ、慌ただしく踊る街を誰もが好きになる頃、オミクロン株の恐怖が襲いかかろうとしていた。年末年始に四年ぶりの帰省を企てる私の脳内では、奥田民生が「今年は久しぶり田舎に帰るから」とあの名曲の一節を口ずさんでいた…

ワクチンクエスト 〜そして多摩地区へ〜

新型コロナウイルスのワクチン接種券が届いたのは六月末のことだった。これで私は2021年の夏を心置きなく楽しむことができる。脳裏に浮かぶのは青い海、白い砂浜、打ち寄せる波。真夏の大冒険を思い描きながら、ワクチン予約開始の日時を待った。 私の住む都…

2021年1月1日、東京

もしもコロナがなかったら今頃旅行に行っているのに、もしもコロナがなかったら今頃友人と飲みに行っているのに、もしもコロナがなかったら……。思い返してみれば、たくさんの仮定法過去を並べた一年だった。そんな2020年の年の暮れも、私はあいも変わらず現…

本棚劇場

「やっぱり本は紙派ですか?」 読書好きの人から度々受けるそんな問いかけは「紙派です」という答えを期待しているようで、いつも僅かな後ろめたさを抱えながら「電子書籍派で……」と答える。読書好きは概して紙の本が好きなのだろうか、読書好きを自負してい…

京都音楽博覧会2020

今から遡ること5年、2015年の出来事といえば、世界各地でイスラム過激派のテロが発生し、ギリシャで金融危機が起こり、国内では安全保障関連法案が成立していたが、その裏でひっそりと私の京都音楽博覧会(以下「音博」)初参加という重大な出来事が起こって…

愛の不時着沼に不時着した話

三十代男性。間違いなくターゲット層からは外れているであろう。そんな勝手な思い込みから韓国ドラマに距離を取っていた。しかも、である。タイトルに「愛」なんて言葉が使われてしまっては、どうしても安っぽいメロドラマを想起してしまい、その距離は広が…

今年になって初めて「禍」という漢字を知った。「災い」や「災難」、「不幸な出来事」を表す漢字で、「わざわい」と入力すると変換される。当初、「渦中」の「渦」だと思って、ツイッターで思いっきり「コロナ渦」と投稿してしまい、慌てて訂正ツイートを入…

ドゥブロヴニク

最初にその写真を見たのがいつなのか、今となっては覚えていない。城壁に囲まれた場所にオレンジ色の屋根がひしめき合い、その向こうには海が広がっている。ジブリ作品に出てきそうな光景に私の目は奪われた。クロアチアのドゥブロヴニク、その場所の写真を…

香港

5時間15分。その時間はいつも「現地に着いたらやりたいこと」を脳内に列挙して気持ちを高ぶらせる時間だった。香港行きの旅客機の機内、普段なら眼前のスクリーンに表示される「目的地までの時間」の数字が小さくなるのを期待と共にちらちらと眺めているはず…

ナンバーガールとのこと

ナンバーガールが解散したときの記憶がないのは、それが当時の自分にとって重大な出来事ではなかったからであろう。大学の軽音楽部の友人に影響され一通りは聴いていたつもりであるが、解散前と解散後の私の生活になんら変化はなく、再結成前と再結成後の私…

令和元年のフットボール

子供の頃、よく何をして遊んでいたか。漫才の導入によくある感じで始まったこの記事には残念ながら笑いの要素はほとんどなく、笑いを求める読者諸君は今すぐこの記事から離れて、YouTubeで霜降り明星の漫才でも見て欲しい。同じくお笑い第七世代で言えば、ハ…

プロローグ(スペイン篇7)

仕事始めを明日に控え、時差ボケが抜ける気配はなく、私の心はまだバルセロナでピンチョスを頬張っていた。午後9時過ぎにテレビをつけてみると、そんな私の社会復帰をより困難にする番組が放送されていた。見てきたばかりの景観が画面に映し出される。『NHK…

アディオス(スペイン篇6)

もはや、語ることはそう多く残されていない。ホテルで最後の朝食をとり、部屋の窓から見えるサグラダ・ファミリアに後ろ髪を引かれながら寂寞のチェックアウト。12:15の飛行機の便に間に合うようにホテルを出た。最後は少し贅沢をして、ホテルが用意してくれ…

聖堂内部(スペイン篇5)

目的地の近くまで来ているものの、なかなかそこに入れずに翻弄され続ける、そんな小説をフランツ・カフカが書いていたような気がするが、私も同じような状況に陥っていた。サグラダ・ファミリア聖堂のすぐ近くに、しかも部屋から見えるほど近くに滞在してい…

マドリード(スペイン篇4)

一歩足を踏み入れたとき、これまでの部屋とは空気が変わったような気がした。目の前には人だかりができていて、人々の頭越しに巨大な絵の上部が見える。 人混みをゆっくりかき分けて、絵の前に進む。幕が少しずつ開いていくように、絵画の全貌が眼の前に現れ…

ガウディの天才性(スペイン篇3)

何かが破裂する音で目を覚ました。iPhoneを手繰り寄せ、時間を確認してその音の正体を把握する。ちょうど日付が変わったところ、どこかで花火が上がっているのだ。 年が変わる瞬間に特に執着心はなく、眠りについていた。所詮、人間が恣意的に決めた瞬間であ…

+8(スペイン篇2)

ホテルの朝食ビュッフェが好きだ。特に、その土地の特色が現れていて、種類が豊富であれば申し分ない。例えば、鹿児島のホテルでは鶏飯を食べ、台北のホテルでは点心を食べたことがあったが、朝からその地域の文化にどっぷり浸かることができる食事は旅行に…

サグラダ・ファミリア(スペイン篇1)

つくづく不思議な建物だと思う。1882年に着工し、未だなお建設中のサグラダ・ファミリア聖堂、それは「永遠に完成しないもの」の象徴のように扱われ、もしかしたら身近にある工期の長い建物がサグラダ・ファミリアに喩えられる場面に遭遇したことがあるかも…