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水戸訪問(後編)

 何かやらなければならないことがあったような気がしていたが、これだ。このブログの水戸訪問の後編を綴るのをすっかり放置していたのだった。三月下旬に訪問してから激動の四月が過ぎ去り、いざゴールデンウィークでじっくりこの日を振り返ろうと思っていたところのゴールデンカムイ全話無料配信、私の心は茨城を越え北海道そして樺太を放浪していた。かくして水戸滞在二日目はベールに包まれたままであり、そのベールを開いてみたところで特段興味深いことがあるわけでもない。iPhoneのヘルスケアのアプリを開いてみると、この日は久々に2万歩超を歩いていたようだが、その歩数の多さに反して特に語るべきこともないように思える。行く先々で深い知見なりなんなりが得られたのであれば、長文を認める甲斐があるのだろうが、楽天マガジンに入っていた「るるぶ茨城」のモデルコースを駆け足で回ったところで、この記事を読むよりガイドブックに目を通したほうがいいのではないか。しかし、一日目を(前編)として公開してしまったからには(後編)も公開しないと気持ちが悪い。それに、「書く」という行為を通じてこの日に何らかの意味を与えられるかもしれない、とこうして五月中旬にようやくキーボードを叩いているわけである。

 そんなわけで、もはや一ヶ月以上前となったこの日の出来事を今更ながら振り返ってみることにする。前述の通り、朝から「るるぶ茨城」のモデルコースをなぞるようにひたすら歩いた。水戸城の大手門をくぐり、東照宮を訪れ、昼間の水戸芸術館のタワーを見上げる。前日から天気は回復し、行く先々で春の息吹を感じられるが、時折吹き付ける風にまだ冬の名残りが感じられた。

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 途中、るるぶに小さく載っていた「黄門さんおしゃべりパーク」を訪れた。街の一角に徳川光圀銅像が立っていて、隣の印籠のボタンを押すと話しかけてくれるらしい。一体どんな金言が聞けるのだろう、これからの私の生き方に影響を与えてくれるような素晴らしい言葉を是非、と期待しながら印籠のボタンを押してみる。……返事がない、ただの銅像のようだ。もう一度押してみるものの、やはり何も語ってはくれない。何度もボタンを押し、銅像を見つめる。見つめ合うと素直にお喋り出来ないタイプなのかと思って視線を外してボタンを押す。それでも沈黙である。時はコロナ禍、会話による飛沫の拡散について喋らないことで注意喚起を促しているのだろうか、さすが黄門様である。

 祖母が健在だった頃、実家のテレビによく映し出されていた水戸黄門、チャンネル権のない幼少期の私はいつも同じような勧善懲悪の展開に辟易しながら見ていたが、今となってはその微妙な違いに注目して楽しめるような気もする。

 黄門さんしゃべらずパークを後にして、偕楽園へと向かった。時刻は正午に近づいていた。その間、移動はずっと徒歩であり、午前中の段階で足が労働基準法違反を訴えている。偕楽園駅前の段差に座り込んで、コロナ禍で衰えた体を憂う。以前は海外旅行に行くと毎日2万歩超を歩いていたのに、こんなにも歩けない体になっていたのか。

 それでも少し休むとまた歩き出せるような気がしてくるのは昨日暴食した納豆の力か。立ち上がり、足に鞭打って偕楽園入り口への上り坂を上る。

 梅の見頃には少し遅く、桜の見頃には少し早い、という微妙な時期だったが、それでも偕楽園の梅は見事であった。さすがは日本三名園のひとつである。偕楽園の構内に、徳川斉昭が詩歌の会や茶会の場として設計した好文亭という建物があった。追加料金を支払い、建物の中へ。入場料を払って入った偕楽園の中でさらに入場料を負担する、サブスクの新作映画みたいな感覚だったが、その価値はあった。木造平屋建のどこか懐かしい雰囲気の中、様々な部屋を見て回る。圧巻は三階の楽寿楼で、千波湖を一望するその眺めに目を奪われた。都会の喧騒を離れ、ここで余暇を過ごせたらどんなにいいだろうと思うほどである。

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 偕楽園を出て、千波湖の畔のカフェで少し遅い昼食を取った後、バスに乗って茨城県庁へ向かった。

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 初めての場所でバスに乗るのは緊張する。前から乗るのか後ろから乗るのか、乗車券は取るべきか、Suicaは使えるのか。国が統一した見解を出してほしい。前に並ぶ親子連れに倣い、後ろから乗ってSuicaをタッチする。

 バスを降りて少し歩くと、目の前に茨城県庁がそびえ立っていた。

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 目的は上層階の無料の展望台、エレベーターで25階へ上がると、茨城県の壮大な景色が広がっていた。都内あるいは旅行先でいくつか展望台に登ったことがあったが、それらの景色とは違う素朴な茨城県の景色。高層ビルなどなく、家々がずっと奥まで並んでいる。電源付き休憩スペースがあり、勉強している学生がたくさんいた。こんな高いところで勉強していたら、さぞかし偏差値も高くなるのだろうか、そんなわけはなかろうが、それでもこんな環境で勉強できる学生たちが少し羨ましくもなる。私もしばし足を休め、読みかけの小説をこの茨城県庁の25階で読みすすめることにする。

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 少しずつ日が低くなり、夕日が茨城の街を赤く染めていた。私の短い水戸の旅も終わりである。

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 落陽を見届け、タクシーで水戸駅近くのホテルへ、預けていた荷物を受け取って常磐線特急ひたちに乗り込む。

 2021年都道府県魅力度ランキングで最下位だった茨城県だったが、二日間この地を満喫した。どういう基準でランク付けがされているのか分からないが、ランキングに惑わされず各々が自分の感覚で魅力度を決めればいい。そして、遠く海外には行けずとも、近場で非日常を味わうことは十分可能なのだ、ということを脳内の黄門様が語りかけてくる。

 常磐線特急ひたちはあっという間に上野駅に到着した。急に襲いかかる現実感、重い気分に水戸黄門のテーマソング『あゝ人生に涙あり』の歌詞が沁みる。人生楽ありゃ苦もあるさ。その後、怒涛の「苦」が襲いかかってくるのはまた別のお話。そろそろ楽したい。