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金沢旅行(プロローグ編)

——ものうさと甘さとがつきまとって離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しい、りっぱな名をつけようか、私は迷う。

 フランスの作家、フランソワーズ・サガンは処女作『悲しみよこんにちは』をこのような書き出しで始めているが、私は金沢訪問のための休暇に夏休みという開放感に満ち溢れたりっぱな名をつけようか迷っていた。いや、迷うも何も、出発日が九月でしかも秋分の日であるからにはもはや紛れもない秋、誰かさんが小さい秋の一つや二つ、場合によっては巨大な秋を見つけている頃合いである。かく言う私もマクドナルドで月見バーガーを食べ、モスバーガーで月見フォカッチャを食べ、どこか歪んだ形で秋の訪れを体感していた。これで夏休みなどとぬかしていては、秋分の日に休む権利が剥奪されてしまいそうである。

 元はと言えば八月中旬に訪れる予定だったのだ。元・夏休みなのだ。八月、会社の夏季休暇に金沢訪問の計画を立てていたのだが、出発予定日に喉の違和感を覚えた。SNSで「コロナ 初期症状」で検索すると「睡眠中のエアコンで喉いためた感じ」と出てくるその軽い感じがまさにそのときの私である。熱もなく、コロナ禍でなければのど飴でも舐めながら空港へ向かっていたのだが、東京の新規感染者数が連日二万人超のこの状況下で、私の心は揺らいだ。脳裏に浮かぶのは旅先で発症して苦しむ私の姿。帰れなくなったらどうしよう現地の人に迷惑かけたらどうしよう……。パッキングが完了した荷物を前に一人、飛行機出発に間に合うギリギリの時間まで悩んだ末に出した答えは全キャンセル。飛行機もホテルも金沢21世紀美術館の企画展も全てである。キャンセル作業が完了した後、私はこの感情に、悲しみという重々しい、りっぱな名をつけた。

 さあ、もう私は腹を括ったぞ、どっからでもかかってきやがれ新型コロナウイルス。そう思って、その日一日は部屋でゆっくり休んでいたが、一向にコロナの足音が聞こえてこない。喉の調子も悪化せず、むしろ良くなってきて、Official髭男dism『Pretender』の高音部も歌えそうなぐらいである。コロナへ、グッバイ、君の運命のヒトは僕じゃない。

 残りの夏季休暇、私の目の前にはただただ空白の時間が広がっていた。激務が続く中、当然の権利として頂いたせっかくの連休なのに。最悪だ。最悪の夏季休暇である。最悪をちょいワル程度にするために、翌日は急遽日帰りで富士吉田を訪れたのだが、私の心は既に金沢、心ここに在らずといった状態で富士山を拝んできたのはまた別のお話。

 近いうちにリベンジを。金沢卍リベンジャーズ。全く、出発日朝にタイムリープしてそのまま飛行機に飛び乗りたい……。

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 真夏のピークが去ったと天気予報士がテレビで言ってたかどうかは分からないが、とにかく九月がやってきた。九月に二回ある三連休、そのうちの二回目にようやく金沢に行ける見込みとなった。この一ヶ月、YouTubeで金沢旅行のVlogを見たり、金沢出身の文豪、泉鏡花室生犀星の文学作品を読んだりして、準備は万全である。シミュレーションが過剰になり、もはや行く必要ないのではというぐらい脳内金沢を堪能してしまったが、やはり現実の金沢はそれを飛び越えてくるぐらい素晴らしい場所なのであろう。

 今回こそは、規則正しい健康的な生活をして、少しの喉の違和感も入り込む余地のない体調万全な状態で当日を迎えよう。

 そんな私に不穏な影が忍び寄っていた。台風である。台風14号が一回目の三連休に全国ツアーを行い、その次の三連休は大丈夫だろうと高を括っていたのも束の間、南の海上でまた新たな台風が発生していた。再び金沢行きが延期になってしまったらどうしよう。そうなったらもう永遠に金沢の地を踏むことはできないような気さえしてくる。そんな折に日本テレビで放送されていたドラマ『初恋の悪魔』第9話で、小鳥琉夏(演:柄本佑)がこんなことを言っていた。

——僕の知る限り、悪いことというのは何も心配してない時に起きる。悪いことが起きるんじゃないかと思ってる時は大抵何も起きない。つまり、人間は心配してもしょうがない。

 台風到来を心配している私には結局悪いことは起こらない、ということか。でもそれって結局心配していないことになり、悪いことが起きるということになるのでは? いやそうなるとつまりは心配していることになり……とこの思考のループがまた新たな台風を生み出しそうなので、考えるのをやめた。とにかく自然を前に人類は無力、最終的には「人間は心配してもしょうがない」という同じ結論に辿り着いた。

 

 ……前口上が長くなってしまった。金沢旅行の記事のはずが、ここまで文章を書き連ねているのに、まだ金沢に到着していない、出発すらしていないとはこれいかに。慌てて記事のタイトルに(プロローグ編)と付け加え、ひとまずこの記事はこのあたりで閉じることにする。

 台風が接近する中、果たして私は無事金沢を訪れ、旅を満喫することができたのであろうか!? そして肝心の体調は!? と煽ってもSNSで私の金沢満喫垂れ流し投稿をご覧になった方も多いであろう。そこにアップされた数々の写真・動画について丁寧丁寧丁寧にキャプションをつけるような作業をしていこうと思う。

 金沢旅行、本編につづく。

 ズボラな私なので、アップされないときは想像でお楽しみください。