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令和元年のフットボール

子供の頃、よく何をして遊んでいたか。漫才の導入によくある感じで始まったこの記事には残念ながら笑いの要素はほとんどなく、笑いを求める読者諸君は今すぐこの記事から離れて、YouTube霜降り明星の漫才でも見て欲しい。同じくお笑い第七世代で言えば、ハナコやAマッソなどもお勧めであるが、若手お笑い芸人について語ることがこの記事の趣旨ではない。サッカーである。

娯楽の乏しい鹿児島県の離島に生まれた少年たちにとって、ボール一つあればできるサッカーは人気で、キャプテン翼の存在がそれに拍車をかけた。そして、その人気を不動のものとした出来事が、1993年のJリーグ開幕。巨大に膨れ上がるJリーグのマスコット、TUBE春畑道哉の奏でるギター、その熱気は、遠く離れた辺境の地にも確かに届いていた。ゴールデンタイムにテレビ放送されるJリーグの試合を観戦し、Jリーグチップスを主食とし、ミサンガを編み、休みの日には友人らと公園でボールを追いかけた。将来はサッカー選手になりたい、そう公言していた時期もあったような気がする。

成長するに従い、サッカー以外のことに興味関心が移り、偶然にもそれはJリーグの衰退とシンクロする。ボールを蹴らなくなったのはいつからだろう。中田英寿はドイツW杯のグループリーグ3戦目、ブラジルに敗退した後、引退を宣言、「人生とは旅であり、旅とは人生である」と題する長文をオフィシャルブログに認めた。私にはそんな明確な瞬間があったわけではなく、気がつけばボールと距離を置いている。「ボールは友達」、大空翼が口にするこの名言は、私にとってはもはや「ボールは知人」もしくは「ボールは赤の他人」だろうか。足の甲でボールを蹴る感覚はすっかりなくなってしまったけれど、それでも、観客としてずっとサッカーを楽しんできた。ボールの行方を、足ではなく目で追いかけ続けた。追いかけて、追いかけて、追いかけて、気がつけば私はバルセロナカンプノウスタジアムに来ていた。

令和元年5月1日、現地時間10:50にパリのオルリー空港を発ったブエリング航空の旅客機は12:30にバルセロナのエルプラット空港に到着した。その日、カンプノウスタジアムでチャンピオンズリーグの準決勝1stレグ、バルセロナリヴァプールの試合が行われることになっていた。年初に、準決勝がゴールデンウィーク中に行われることを知った私は、まだ勝ち上がるチームも試合が行われる場所も未定の状況下で準決勝観戦を目論み、とりあえずパリに滞在することを計画。4月中旬に準決勝のカード、バルセロナvsリヴァプールトッテナムvsアヤックスが決定した後、速やかにパリからバルセロナ行きの航空券と試合のチケットを手配、ホテルだけはキャンセル無料の条件で事前に手配をしていた。

バルセロナは年末年始に訪れたばかりであった。そのときは長距離飛行の疲労と時差ボケに悩まされての到着であったが、今回はただただ試合を観戦できることの期待感だけである。二度目のバルセロナであったが、もう何度も訪れているといった風情で、空港巡回のバスに乗り、切符を買い、市内へ向かう列車に乗り込む。

バルセロナ・サンツ駅に到着、駅近くのホテルにチェックインした後、駅構内のFCバルセロナのショップへ。「今日の試合を観に来たのかい?とてもラッキーだね」と店員に声をかけられて購入したユニフォームの背中には「MESSI 10」。

果たして私はとてもラッキーであった。メッシの蹴ったボールは緩やかな弧を描いて、リヴァプールGK、名手アリソンの手をすり抜け、ゴールに吸い込まれる。それを正にそのゴールの側で目の当たりにする。ゴール直後、スタジアムが揺れ、メッシを神と崇める観客。まるでスタジアム自体が感情を持っているかのような、そんな感覚を抱く。

バルセロナのメッシ、スアレスビダル、ピケ……、リヴァプールのサラー、マネ、ファンダイク、アリソン……。サッカーファンの夢を集めて一つの空間に閉じ込めたようなこの日のカンプノウの空気を深く吸い込む。隣の観客のあおるウオッカの臭いがする。

サッカー選手にはならなかったし、きっとなれなかった。普通の会社員だとしても、自分の意思で自分の観たい試合を観に行けること、それはそれで悪くない未来のようにも思える。

バルセロナ 3-0 リヴァプールチャンピオンズリーグ準決勝の1stレグはバルセロナの圧勝で終わった。数日後、2ndレグでリヴァプールが奇跡の大逆転劇を演じることになるのだがそれはまた別のお話。これだからサッカーは面白い、と数日後の私はそこでまたサッカーの魅力を感じることになる。

ボールを蹴り始めた昭和、ボールを蹴ることをやめた平成、そして時代は令和へ。もはやボールを蹴ることはないかもしれないけれど、それでも私はこのスポーツに魅力され続けるのだと思う。あの日カンプノウで目にしたメッシのフリーキックは、死ぬまでずっと私をサッカーの虜にしてしまうような、そんな力があった。

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