日記なんかつけてみたりして

コメント歓迎期間中

アディオス(スペイン篇6)

もはや、語ることはそう多く残されていない。ホテルで最後の朝食をとり、部屋の窓から見えるサグラダ・ファミリアに後ろ髪を引かれながら寂寞のチェックアウト。12:15の飛行機の便に間に合うようにホテルを出た。最後は少し贅沢をして、ホテルが用意してくれたタクシーで空港へと向かった。

タクシーの運転手の英語が聞き取りづらく、よくよく聞いていると「Park Guell」を「パルクグエル」のように"r"をはっきりラ行で発音しているようだった。母語の影響だろうか。訛りが強いからといって相手の英語を理解しようとする努力をやめず、相手の母語の影響まで考えて相手の英語を聞き取れたら理想だと思った。もちろんスタンダードな英語が聞けて話せて、というのは大前提にあって、自分はまずそこから取り組むべきだと思うけれど。

日本に行ってみたい、というので、これから私がたどる道のり(香港まで12時間、更に日本まで4時間のフライト)を伝えると、意気消沈した様子。そう、極東までの道のりは長い。私も意気消沈する。

バルセロナ郊外のエル・プラット空港に到着。スーツケースを預け、手荷物検査を終え、お土産を買い、牛歩よりも遅い入国審査の列の進み具合にやきもきしたものの、なんとか搭乗口の前に到着する。

f:id:m216r:20190209205806j:image
f:id:m216r:20190209205811j:image

搭乗して座席につく。しばらくすると、機体が動き出した。背中に感じる無情な重力、まだここにいたいという私の想いを引き剥がすように旅客機は加速する。

離陸。

アディオス、スペイン。今度は是非サッカー観戦で訪れたい。完成して未完成となったサグラダ・ファミリアを見に訪れたい。この数日で、私は完全にスペインの魅力に取り憑かれてしまっていた。

 

 

画面に映し出されるリリー・フランキーの尻。機内で映画『万引き家族』を見ていた。是枝監督の作品は『誰も知らない』や『そして父になる』などもそうであるように、家族のあり方を問う作品が多いような気がする。本作品で描かれるのは、特異な繋がりで生活を共にする集団。輪郭が不確かなものを描いて家族とは何かを突きつける素晴らしい作品であった。

そしてふと気づく。「サグラダ・ファミリア」、日本語に訳すと「聖家族贖罪教会」。これは、サグラダ・ファミリアの建設を提案した聖ヨセフ帰依者協会の基本精神によるものである。社会が混乱していく時代に、その最小単位である家族を大切にしようという思想。

映画が終わったあと、私はこの不思議な偶然について考えていた。そして、サグラダ・ファミリアについて、それから、スペインで経験した私の感情を否応なしに揺さぶってきた瞬間について。私がスペインへ想いを馳せるそのときにも、旅客機は無慈悲にも極東へ向けて猛スピードで向かっているのだった。

少し休もうと、ネックピローを膨らませる。そして、目を閉じる。徐々に意識が遠のいていく。

こうして、私のスペインの旅は終わった。現地で感じたことはここまででほとんど語り尽くしたような気がする。この「スペイン篇」もこのあたりで幕を閉じることにする、はずだったのだが。